No.32 PWMの応用

 今回は、PWMを効果的に使った具体例を一つあげてみようと思います。

 最近では、メロディーやバックのコードの音色は、もう出つくした感があり、多くのシンセシストは打楽器にこっています。そんなわけで、今回は国産シンセの”廉価版名器”であるSH−1を使ってティンバレスの音色を再現してみましょう。

 まず、PWMの基礎編で述べた通り、倍音構成の変化が色々に可能なPWMは、倍音変化が複雑な打楽器には適しているといえます。

 普通、ドラムなどの打楽器には音程の感じやすいものと、そうでないものがありますが、それは叩く部分の材質とか、胴体の共鳴の具合などによって決まります。ドラムセットのなかのバス・ドラム、スネア、タムタムなど、いずれも音程はちゃんと存在するので、すぐれたドラマーは、チューニングにも気を使っているはずです。

 さて、シンセサイザーでこれらの音を作るときには、かなりの制約があるのは事実です。というのも、実際の打楽器の倍音は複雑であるのに、シンセのそれは単純だからです。

 そこで、いかにもリアルに聞こえるように複雑さを装う必要があります。

 ここ数年来、ニューウェーブ系のポップスでは、ホワイト・ノイズを「パン、パーン」と鳴らして打楽器音を演出していますが、これだけでは飽きてしまいます。そこで、これにPWMの音を胴鳴りの音として加え、ラテン・パーカッションのティンバレスを再現してみようと言うわけです。

 まず、VCOの音程は32’。もちろんパルス波を選択し、10HzくらいのLFOでPWMをかけます。倍音変化の周期が速く、これだけ聴くと不快なのですが、これが”かくし味”になります。EGは二つ使用し、VCF側はディケイとリリースを1くらいに短くし、VCA側はリリースを4くらいにセットします。VCFではキーボード・フォローを10にし、鍵盤上での音程感をよりはっきりとさせます(図)。

 レゾナンスはつけません。ホワイト・ノイズとPWM音のミックスの割合は2対1くらいです。アタックとリリースなどEGの微調整で相当リアルになるはずです。また、低いキーを弾けば、ティンパニー風にも聴かせられるでしょう。

文・岩崎 工

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