No.36 ヴォコーダー

 今回は、いわゆるシンセサイザーとは違いますが、YMOの「ト・キ・オ」というフレーズで一躍ポピュラーになったヴォコーダーについて話しましょう。

 Vocoderは、Voice(声)とCode(符号)との造語で「声を符号化する」というような意味になり、ある楽器の音色を、マイクに向かってしゃべる人の声色(こわいろ)にしてしまうプロセッサーです。

 一般的に、マイク入力する人声を分析する部分と、分析した音色とエンベロープを合成する部分で構成され、合成部の音源としてキーボードに制御される発振器を内蔵しているタイプがポピュラーです。このヴォコーダーで特徴的なのは、2組のFixed Filter Bank(固定フィルター群)で、VCFのようなカット・オフ・フリケンシーはなく、むしろグラフィック・イコライザーに近い性格のものです。

 これらのフィルター群は通常半オクターブごとに区切られ、片方で分析された倍音構成を、もう一方のフィルター群で模倣します。さらに、それぞれに付随するエンベロープ・フォロワー(前回参照)で、出力側のVCAをコントロールするわけです。こうして演奏される楽器音がマイク入力された声の音色とエンベロープで鳴ることになります。

 さて、キーボードと発振器を内蔵している外見は、普通のキーボードと同様です。これに接続したマイクに向かってしゃべり、同時に鍵盤を弾くことによって音(和音も可)が鳴ります。ただし、マイクに入力される音程は無視され、音色とエンベロープだけが影響します。したがってキーボードで正確に音程を弾けば、入力した声がメロディーを歌っているように聞こえるわけです。

 内蔵キーボードを持たないタイプでは、シンセサイザーやギター等の楽器を接続し、これらがマイク入力する声の音色になるわけですが、持続音を得られるオルガン等が最適でしょう。

 変わったところでは、ホワイト・ノイズを音源として用い、ザワザワとした大勢の声を作るような方法もあります。いずれにしてもマイク入力する声色や、人によって異なるニュアンスが得られるのが大きな特徴で、大編成のコーラスから、ソロ・ボーカル風まで応用範囲が広いのが利点です。

文・岩崎 工

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