No.38 デジタル・シーケンサー

 今回は、デジタル・シーケンサーの基礎的なものについてです。

 シンセサイザーにおけるオーディオ(音声)信号はアナログですが、コントロール信号(KCVなど)はデジタル化が容易です。この性質を利用したコントローラーの特徴は、アナログ・シーケンサーのように各ステップに電圧を記憶させるのではなく、内蔵のメモリー(記憶素子)に直接キーボードCV(音程)などのコントロール信号がセットされることです。

 あるフレーズを弾くと、全く録音されたかのように再生できますが、磁気録音(普通のテープ・デッキなど)と異なるのは、再生のスピードを変えてもピッチや音色が変わらないことと、同じスピードでも異なったピッチで再生(つまり移調)できることです。

 さて、簡単にその仕組みを説明しましょう。そもそも「デジタル」の意味は、情報を2進法で処理することで、0と1という2つの数値のみを用いるシステムです。コンピューターで2進法が用いられるのは、回路のオン・オフを表すのに0と1が最適だからです。

 例えば、10個のオン・オフ回路を用いれば、0〜1000の区別、つまり千分の一の値の区別ができることになります。図の「記録」の側で言うと、KBDからの入力は、RAM(Random Access Memory)の中の「短期メモリー」内でいくつかのオン・オフ回路により音程を認識された上で記憶され、デジタル−アナログ変換器(Digital-Analogue Converter=DAC)でアナログ電圧に変換されます。DACでは、同時にエンベロープ・ジェネレーター(EG)用のトリガー信号も発生します。

 実際に「記録」させるために、短期メモリーの情報(単語=ワード)は、「クロック」(音楽的にはテンポを決めるもの、と考えられます)ごとに、より多くの記憶容量を持つ「長期メモリー」に移されます。

 ここで音符の長さなどの「演奏データ」が記憶されるわけです。「演奏」時には、短期メモリーは切り離され、長期メモリーにストックされた記憶は、自動的にDACに送られ、シンセ用の制御信号になります。

 最近では、ポリフォニックなデジタル・シーケンサーも登場し、SN比の良い録音機のような使い方も可能になってきています。

文・岩崎 工

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