前2回は多重録音のプロセスについて大まかな説明をしましたが、今回はシンセサイザーやコンピューター機器を使用した多重録音に欠かせない「同期信号」(Synchro-signal)について話しましょう。 例えば、MC−4(マイクロ・コンポーザー)とリズム・ボックスを同じテンポで演奏させる時、この同期信号を使わないとすると、テンポのツマミで合わせるしか方がありません。 すぐに想像がつくことと思いますが、2台の機械のテンポをツマミで同じにするのは至難の業です。だいたい30秒もすればズレが明らかになってしまうでしょう。これは2台のシーケンサーを同期させるとか、MC−4とデジタル・ドラム(リン社、オーバーハイム社)を同期させる場合も同じです。 同期信号の最も基本的なものは、パルス波によるON/OFFです。これは1台のアナログ・シーケンサーが終わったと同時に、もう1台のシーケンサーをスタートさせる、というような使い方で、図1のようなパルス波がその役目を果たすのです。 通常の同期信号は、実はこれらON/OFFの連続で成り立っています。 コンピューター機器にもほぼ共通していえることですが、1200Hzと2400Hzの周波数の高低を機械が読み取る方式がポピュラーで、これが0と1を表し、シンセ関係では同期信号の1拍ごとのON/OFFとして使われるのです。これをFSK(Frequency Shift Keying)と呼び、図2のようなブロックと出力波形を持っています。わざわざVCOを使い、周波数帯を高くしているのは、低周波ではノイズやクロックによる干渉で、偶発的なエラーが起きるのを避けるためです。 また、いま最も進んだシンセサイザーといわれるフェアライトCMIなどでは、三角波を直接クロック周波数とするような方式をとっています。 これらの同期信号はいずれも、1回目の録音(ベーシック・トラック)と同時に別トラックに録っておき、この信号を同期させる機器の外部シンク入力に戻してやることにより、常に同じテンポで演奏してくれます。だから多重録音の最初の段階で、全体のテンポを決定する同期信号を録音するのが、一つのセオリーといえます。
文・岩崎 工
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