No.46 エフェクター(2)

 前回はリバーブとエコーの2つの残響装置についてでしたが、今回はその中でも多くの可能性を持つデジタル・ディレイについて少し詳しく説明しましょう。

 デジタル・ディレイ(Digital delay)は、基本的にはPCMレコーダーと同じ原理に基づいており、入力を非常に短い時間(30万分の1秒など)ごとに区切り、これをA/D(アナログ→デジタル)コンバーターで数値に変換していき、次々とメモリーに書き込みます。このデータを指定した時間だけ遅らせて、逆にD/Aコンバーターで読み出し、入力信号の近似値を再現するわけです(図)。もちろん、これらの動作はほんの一瞬で処理されます。

 このデジタル・ディレイが優れている点は、データを数値として記憶するので信号が劣化しないことですが、原音に忠実であるためには、時間の分割を細かくする、つまりメモリーの容量が大きい程良いわけです。

 さて、デジタル・ディレイは単なるエコーマシンではなく、いわゆる「コーラス・マシン」や「フランジャー」としても使えるし、さらに「ピッチ・トランスポーザー」「ハーモナイザー」「タイム・コンプレッサー」といった最新装置と共通のコンセプトを持っています。

 まず、コーラスやフランジャーは、エコー同様に信号を時間的に遅らせるだけでなく、内蔵のLFOで変調しています。つまり遅延時間を周期的に変えているわけです。コーラス・マシンでは人声を入力した場合、何人もの声に聞こえるようになり、フランジャーではジェット・サウンドのようなうねりが音に加わりますが、これらは、そのLFOの変調の結果です。遅延時間は、前者で30ミリセカンド前後、後者で0.1〜15ミリセカンド程度と異なります。

 「ピッチ・トランスポーザー」と「ハーモナイザー」は、名称が異なるだけで、機能はほとんど同じです。入力された信号を同じ音色のまま音程を変えるというもので、だいたい上下1オクターブの範囲です。この装置もメモリーに波形データを記憶させるデジタル特有の方式の応用で、機種によっては、キーボードの出力電圧で音程を制御でき、音楽的に使いやすくなっています。

文・岩崎 工

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