No.47 エフェクター(3)

 前回と前々回は残響装置(エコーなど)とデジタル・ディレイなどについて話しましたが、今回は、その他のエフェクターの中でシンセサイザーに関連の深いフェイズ・シフター(Phase shifter)を採り上げましょう。

 フェイズというのは、音の「位相」のことで、シフターは「交換機」とか「変動させるもの」といった意味で、要するに「位相をずらす装置」のことです。

 これは、ステレオ作品のレコードやテープなどで「音の定位」はよく採り上げられますが、その辺とも無関係ではありません。図1は「位相のずれ」と波形の形を図にしたものですが、これが人間の左右の耳にそれぞれずれて到達することにより、音源の方向を知ることもできます。

 話は前後しますが、人間の耳が15〜20センチの距離をおいて2つあるということは重要です。当然といえばそれまでですが、これが1つなら、ステレオ作品やフェイズ・シフターなどは全く無意味なはずです。例えば2000Hzくらいの音は、波のピークの到達時間の差(つまり位相差)はちょうど90度ずれ、左右の耳に届きます。この時、片方の耳で強く感じている音は、他方では逆に打ち消されるようになり、音源の方向も判断できます。

 さて、実際のフェイズ・シフターでは、この位相のずれをLFOを用いて連続的に変化させ、原音とミックスする仕組みになっています。

 この時、位相を刻々と動かしているので「ショワーン」(LFOスピードが0.2〜0.5Hzくらいの時)という音色の変化として聞こえ、VCFをLFOモジュレーションしたのとは全く異なった効果を生みます。

 また、ずらす位相の中心周波数を細かく設定できる機種もありますが、通常1000〜2000Hzの帯域の変化が人間の耳には最も感じやすく、音色の変化としては派手なようです。さらにどの機種にも、レゾナンスが装備され、中心周波数を強調してフィード・バックしています(図2)。

 さて、このフェイズ・シフト回路を2台備えたものでは、ステレオ音場を活用した使い方が出来ます。2台を全く同じセッティングにし、片側のインバーター(位相反転)スイッチをオンにすれば、ごく自然なオート・パンポットになります。 

文・岩崎 工

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